▼ 裁決事例集 No.70 - 87頁 争点 (1)請求人が、その所有する土地を権原なく使用(占有)する者から損害賠償金として金員を受領している場合に、それが課税所得に該当するか否か。(争点1) (2)請求人に対する課税処分が違法であることを理由に督促処分の取消しを求めることができるか否か。(争点2) 請求人の主張 (1)争点1について E社は、請求人とE社との間の本件土地に係る賃貸借契約が終了したにもかかわらず、長年にわたり使用(占有)し続けている。そのため、請求人は、本件土地を自由に使用することができない状況となり、多大な損害を被り、また、長年にわたり重い身体的負担を負い、心身に対して深刻な損害を受けている。本件金員は、E社が本件土地を明け渡すまでの間、請求人がE社から受けている損害に対する賠償金である。 したがって、本件金員は、所得税法第9条第1項第16号に規定する非課税所得の損害賠償金に該当するから、本件金員を不動産所得の総収入金額であるとしてされた、本件課税処分は違法である。 (2)争点2について 上記(1)のとおり、本件課税処分は違法であるから、本件課税処分に基づく本件督促処分は違法である。 審判所の判断 (1)争点1について イ 所得税法第9条第1項第16号、同法施行令第30条及び第94条の趣旨は、損害賠償が他人の被った損害を補てんし、損害がないのと同じ状態にすることを目的とするものであって、その間に所得の観念を入れることが酷であるから、これを非課税所得とし、他方、損害賠償金の名目で支払われたとしても、そのすべてが非課税所得になるわけではなく、本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、喪失した所得(利益)が補てんされるという意味においてその実質は所得(利益)を得たのと同一の結果に帰着すると考えられるから、それを非課税所得としないとするものである。 ロ これを本件についてみると、[1]請求人は、E社に対して、損害賠償金を請求するに当たって、本件土地をE社が使用(占有)することによる経済的損失に対する損害賠償の部分と精神的苦痛に対する損害賠償の部分とを明らかにしないで請求していること、[2]E社は本件和解において合意した賃貸借契約期間満了後も継続して本件土地を駐車場として使用し、請求人に対して、その使用の対価と称して本件金員を支払っていること、[3]請求人は、E社が支払う上記[2]の対価を損害賠償金として受領し、その増額を数度にわたり要求していること、[4]E社は、請求人に対して、本件和解に基づく賃貸借契約期間中は月額15万円を支払い、当該賃貸借契約期間満了後も毎月の送金を継続し、その金額を徐々に増額して、平成13年5月以降は月額35万円としていること、及び[5]E社は請求人の損害賠償金の増額要求に対して、送金している金額が周辺の土地事情からみても決して低い額ではない旨回答していることが認められる。 上記[1]ないし[5]のとおり、本件金員の支払を求めた請求人の請求方法、本件金員の額及びその金額の変遷、本件金員の支払態様、支払者であるE社の認識などの事実を総合すると、請求人がE社から支払を受けている本件金員は、請求人がその心身に受けた損害を賠償するためのものでも、資産に加えられた損害につき支払を受ける見舞金でもなく、請求人の本件土地に対する使用収益を妨げて請求人の得べかりし利益を喪失させて生じさせた経済的損害を賠償するためのものであると認めるのが相当である。 そうすると、本件金員は、損害賠償金ではあるが、本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれを賠償するためのものであるから、喪失した所得(利益)が補てんされるという意味においてその実質は所得(利益)を得たのと同一の結果に帰着すると考えられ、それは課税所得となるものというべきである。 ハ そして、所得税法施行令第94条の規定によれば、本件金員は、請求人の業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものというべきである。 ニ 以上のとおり、本件金員は、所得税法第9条第1項第16号に規定する非課税所得の損害賠償金には該当せず、請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されることから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。 (2)争点2について 本件課税処分が適法であることは、上記(1)のとおりであり、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件督促処分は、本件滞納国税がその納期限である平成16年9月30日までに完納されなかったことから、国税通則法第37条第1項の規定に基づいて行われたものと認められるので、本件督促処分は適法である。 平成17年9月12日裁決 |
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