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▼ 裁決事例集 No.59 - 14頁

 本件遺言は、その文言からみる限りでは、[1]財産を与える旨の具体的な記載がないこと、[2]相続財産に属する特定の財産の処分でないこと、[3]本件遺言書の文言からみると継続的に金銭を給付する金銭債権の遺贈ともみられるが、必ずしも十分な記載がないこと、[4]仮に、継続的に金銭を給付する金銭債権の遺贈だとしても、いつまで金銭を交付すればよいのか、何ら給付期間に関する記載がないこと等遺贈としての効力を巡って、判断の分かれる余地が大きいものであると認めざるを得ない。
 ところで、遺言の解釈に当たっての基本的な考え方(最判昭和58年3月18日)を踏まえて本件遺言に係る遺言者である被相続人の真意を推認すると、被相続人は、本件受遺者に恩義を感じ、感謝の気持ちから、本件受遺者に相当額の財産を遺贈する意思を有していたことは確実であり、本件遺言は、本件受遺者を信頼し、屋敷、墓等の管理を依頼するため、将来にわたり受遺者の生活を安定させ得る程度の金銭を取得させる意図の下に記載されたものと認めるのが相当である。
 したがって、このような被相続人の真意を踏まえれば、本件遺言は、単なる被相続人の希望の表明と解するのは相当でなく、毎年金銭を継続的に給付することを内容とする金銭債権の遺贈と解するのが相当である
 請求人は、相続税の期限内申告の時点で既に承知していた本件遺言書の内容に基づき、本件受遺者に対して実現すべき金銭債権の相続開始時の価額を評価し、それを相続財産の価額から控除して課税価格を計算すべきであったにもかかわらず、これをしなかったにすぎないのであるから、本件調停の成立によりその具体的な内容が確定したことを理由として、当然に国税通則法第23条第2項第1号の規定による更正の請求ができると解するのは相当ではない。
 しかしながら、遺言の解釈において、結果的には遺贈の効力を認めるべきではあるものの、納税者がその効力の有無につき疑問を抱いたとしてもやむを得ないと認められる客観的な事情が認められることにより、申告等の時点において、遺贈の実現義務の負担を確実には予想し得ず、相続財産の価額からその義務の金額を控除しないところにより課税価格を計算したことにつき納税者に責めを負わせることが酷と認められる事情が存する場合には、国税通則法第23条第2項第1号の規定による更正の請求を認めるのが相当である。
 本件遺言については、文言からみる限りでは、遺贈としての効力を巡って、判断の分かれる余地の大きいものであると認められ、原処分庁も、不確実なもので、そもそも遺言としての効力はないとの判断にたっていることを踏まえれば、請求人が、期限内申告の時点において、遺贈の実現義務の負担を確実には予想し得なかったとしてもやむを得なかったものと認められる。
 したがって、本件更正の請求は、国税通則法第23条第2項第1号に該当し、適法なものと解するのが相当である。

平成12年6月26日裁決