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▼ 裁決事例集 No.48 - 424頁

 請求人は、次のとおり主張する。

請求人の保存する帳簿及び請求書等には、消費税法第30条第8項又は第9項に定める事項のすべてが記載されている。原処分庁は、仕入先の実在の確認とその特定が当該帳簿及び請求書等によって可能でない限り、課税仕入れに係る消費税額の控除は認められないとして原処分を行ったもので、これは、法令の規定によらない違法な処分である。
 請求人には、取引の相手方の氏名等が真正なものであるか否かを相手方に問いただす法律上の権限は付与されておらず、請求人の取引先は遠隔地に所在するものも多いことから、請求人は、仕入先の実在の確認も特定も行い得る環境にはないというべきである。
 請求人は、仕入れにおける後日のトラブルに備えて、当該絵画等の真実の所有者と推認される者の氏名等及び当該絵画等を持ち込んだ者と受領した領収証等の氏名等が相違する場合当該持ち込んだ者の氏名等を記載した手帳(「本件手帳」)を保有しているにすぎない。


 原処分庁は、次のとおり主張する。

 消費税法は帳簿方式を採っているから、帳簿によりその取引につきデータを保存し申告や調査の際に資することを求めているのは当然のことであり、その記載内容が真実であって、かつ、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」についても、住所等を記載するなどの方法により、相手方を具体的に特定できる状態におくことが不可欠である。
 本件取引については、取引の相手方の実在すら確認ができず、課税仕入れの相手方の真正な氏名又は名称が記載されているとは認められないから、消費税法第30条第8項及び第9項の記載要件を具備していず、仕入税額控除をすることはできない。


 審判所の判断は、次のとおりである。

 仕入税額控除に関する消費税法第30条第1項の規定が適用されるためには、保存されている帳簿又は請求書等に、真実の課税仕入れの相手方の氏名又は名称が記載されていることを要し、ただ単に課税仕入れの相手方ないし書類作成者の氏名又は名称として何らかの氏名又は名称と覚しきものが形式的に記載されていれば足りるというものではないことは、明らかである。
 もっとも、取引の相手側に立って交渉その他の取引に関連する行為を実際に行う者が、相手方本人なのか、その代理人にすぎないのかが判然としない場合もあり、かかる場合でやむを得ないときにおいては、取引の相手側に立って実際に行動する者の氏名又は名称の記載をもって、要件を満たすものと解し得ると認められる。
 消費税第30条第1項の適用除外事由である法定の要件を具備した帳簿又は請求書等を保存していない事実については、事業者側が、まず、帳簿又は請求書等に課税仕入れの相手方の氏名又は名称として記載されているものが、真実の相手方のそれであることを、相当の根拠、資料に基づいて明らかにする必要があり、事業者がこれを果たさない場合には、当該課税仕入れにつき法定の要件を具備した帳簿又は請求書を保存していないことが、事実上推認されるというべきである。
 取引の経緯等から、相手側に立って実際に行動する者から交付される請求書等に、真実の取引の相手の氏名又は名称が記載されているか否か、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で相当程度疑われるにもかかわらず、あえて、これを確認しようとせず、漫然と当該請求書等を保存し、あるいは、当該請求書等に基づいて帳簿に記載するにとどまるときは、真実の相手方のそれであることを明らかにする必要を果たしたということはできない。
 他方、原処分庁の主張が、相手方の氏名又は名称のみならず、その住所又は所在地も帳簿又は請求書等自体に記載されていない限り、消費税法第30条第8項、第9項の要件を充足しないというものであるとすれば、これは、明文の規定に反する解釈といわなければならない。真実の相手方の氏名又は名称の記載であることは、帳簿又は請求書以外の資料によっても明らかにし得るものであるからである。
 本件取引については、請求人は、[1]直接請求人と接触して売買の手続を行う者(「本件持込人等」)が取引対象物件の真正の所有者である場合とない場合とが混在していることを認識しており、また、[2]本件持込人等が記載等した領収書等の書類により取引の相手方の氏名又は住所を本件仕入先元帳に記載していることを自認しているものと認められる。
 もっとも、上記Eの[2]のとおり記載していた場合でも、これが必ずしも真正でない可能性があることを考慮して、本件持込人等の氏名等を記載した書類を別途作成し、保存していた(税務職員の求めに応じて提示することを含む。)ときには、当該書類は、一種の補助帳簿として位置づけられ、帳簿に記載等をした氏名等が真正のものでないと認定された場合でも、当該書類の保存によって、仕入税額控除の適用をすることができるというべきである。
 [1]本件取引において本件仕入先元帳及び本件請求書等に記載されている住所等については、請求人もこれが真偽不明と認識しており、[2]本件持込人等が自身の氏名等を明らかにされることを回避しようとしている以上、経験則上、本件持込人等が記載した氏名等が真正の所有者等の氏名又は名称であるとは考え難く、加えて、[3]請求人は本件手帳を作成し、保管していながら、原処分の調査担当職員、異議担当職員及び当審判所のいずれにも本件手帳を提出しないとしていることが認められるから、上記記載の氏名等は真正の取引の相手先の氏名等ではないと推定され、かつ、本件持込人等の真正の氏名等でもないと推定される。
 そうすると、請求人は、当該事業を営む上で社会通念上要求されるところの相当の注意の範囲で、相手方の氏名等が必ずしも真正なものでないことを認識していたにもかかわらず、本件持込人等が記載等した氏名等を仕入先元帳に記載し、調査担当職員の要求にもかかわらず本件持込人等の氏名等を記載した手帳を提示せず、かつ、相手方の氏名又は名称は虚偽と認定されるのであるから、当該氏名等は、消費税法第30条第8項第1号イ又は同条第9項第1号イの「氏名又は名称」ということはできない。
 したがって、同条第7項の「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除を適用することはできない。
 請求人は、仕入先の真正な氏名の記載がないことをもって、当該仕入れを否定することはできないと主張するが、上記判断は、本件仕入先元帳等が消費税法第30条第7項ないし第9項の帳簿又は請求書等に該当しないと判断したものであり、当該仕入れが同条第1項の課税仕入れに当たらないと判断したものではない。たとえ、同条第1項の課税仕入れに当たっても、同条第7項の要件を満たさなければ仕入税額控除はできない。
 しかし、たとえ帳簿等に記載された相手方の氏名等が虚偽の場合であっても、当該事業者がこれを真正と信ずべき相当な理由があり、そのため当該帳簿等が消費税法第30条第7項の帳簿又は請求書等として保存されていると認められる場合には、同条第1項の仕入税額控除は適用される。



平成6年12月21日裁決




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